随想集「ズレズレ草」

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随想集「ズレズレ草」とは
 「ズレズレ草」は、etwas代表・貞広貴志が、ライター貴志貞広として、事業とはちょっと距離を置き、心にうつりゆくよしなし事をつづる随想コーナーです。世間とズレててもご容赦を。

ズレズレ草 其の弐 待つことだけが万博だ~大阪EXPO再訪記

2025年10月15日

CATEGORY:随想集「ズレズレ草」
ライター 貴志 貞広

  半年間にわたった大阪・関西万博が10月13日に閉幕した。メディアの総括は、おおむね「成功」のようだが、成功の副作用である「待ち時間」の実態を訪問者目線でルポする。

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 9月中旬の平日、2回目となる万博訪問のため大阪に行った。今回のお題は「待つを楽しむ」。開幕直後の前回は回れるだけ回ったので、今回は行列覚悟で人気パビリオンにしぼった。

 昼過ぎ、イタリア館に着いたら最後尾のプラカード掲示はすでに「待ち時間5時間以上」。プラカードをかかえた係員が、「本当に並ぶ? 確実に入れるには入れるけど、そのころには暗くなっているかもよ」と気の毒そうに言う。その言葉通り、結果は7時間半待ちで、入退場行列を合わせると計8時間40分と人生最長待ち記録を樹立した。
 事前には、待ち時間を有効に使ってあんなこと、こんなことやろうと計画していたが、なんとも言えない疲労感におそわれ、できたのは立ったり座ったりしながら、ノロノロ歩くのみだった。大屋根リングの下の日陰に縄をたたむように行列したので、炎天下にさらされたわけではなかったのだけれど。
 印象的だったのは、まわりの人がまったくイラだってなくて、列を抜けて他パビリオンを見に行くといったズルをする人もいなかったこと。日本の美徳、でしょうか。何時間も並ぶというイベント自体を静かに楽しんでいた。列にインバウンドの人が、目立って少なかったのは偶然ではないのだろう。

 待ちに待って見学したイタリア館の中は、さすがに素晴らしかった。イタリア政府が持ち込んだ国宝級の芸術品はもちろん、お洒落な工業デザインの数々は「さすがイタリア」と思わせた。

 で、総括。個人的には、パビリオンに並ぶのは仕方ないとして、疲れ切った退場後に目の前の駅まで遠回りして1時間も歩かされるのはいかがなものかとは思った。この時間は楽しめなかった。バスの増発なり午後10時以降も飲食などでとどまれる仕掛けなり、改善策は取り得たと考える。(ライター 貴志貞広 *9月下旬のフェイスブック投稿に加筆)

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ズレズレ草 其の壱 二拠点活動のススメ~「便利な田舎」暮らしで、都会の魅力も再発見

2025年10月10日

CATEGORY:随想集「ズレズレ草」
ライター 貴志 貞広

 9月のとある平日の午後。あまりに天気がいいので、ふと思い立って買ったばかりのオートバイにまたがった。目指すは、自然豊かな山の中。市街地からわずか15分で原色の景色に飛び込めた。緑が濃く、空は青く、ガードレールは黄色い。信号も対向車もない。田舎ならではの爽やかな時間で心身をリフレッシュできた。仕事の面でも、観光振興の可能性を肌で感じた。

 

 それから数週間後。2日連続でにぎやかな日本酒イベントに参加した。初日は、全国の名門蔵元49蔵が集結した「唎酒会」で、2日目は福島県の酒蔵を集めた屋外イベント。いずれも、著名な蔵主らが参加しており、盃を次々と空けながら酒造りの奥深さやトレンドを生で学べた。こちらは、集客力のある都会だからこそ体験できる機会だった。

 最初のエピソードは新たに拠点を構えた故郷・山口県で、次が移住後も住処を残した東京都での出来事だ。6月に旅行会社を退任して約4か月、「都会/田舎」「にぎやか/静か」のコントラストが激しい日々を送っている。「二拠点活動」を選んだことが、それを可能にした。

 「二拠点」の相乗効果は、想定以上だった。

 今回、「旅でつなぐ 山口の未来」をキャッチフレーズに個人事業を始めたが、地元のパートナーからは「東京につながりを持ち、知見や人脈を保っている人」への期待を感じる。月に半分しかいないからこそ、上京中は積極的にイベントに顔を出し、人に会うようにもなった。通勤で往復するだけだったころには見失っていた、東京の魅力を再発見した。
 一方、きちんと故郷に拠点を構えたことで、山口では新たな人のつながりができた。最近も、DXに熱心な金属精密加工会社の三代目社長や、娘の海外情報発信活動を支える歯科医と知遇を得た。おそらく、帰省や観光でたまに訪れる腰かけでは、知り合えなかった人たちだろう。

 実は、高校まで過ごした故郷は、暮らす場所としてはあまり好きじゃなかった。近所付き合いが濃くて、一挙手一投足がいつの間にか集落じゅうに伝わった。アンジェラ・アキが「繊細な糸で素朴な街に縛り付けられていた」(「HOME」より)と歌った息苦しさ、煩わしさがそこにはあった。
 故郷を離れて45年がたち、商店街の「シャッター街」化など人口減と高齢化による衰退は目を覆うばかりだが、生活は意外と便利で快適なことに気づいた。車(かバイク)があれば、いつでも、どこでも行けて、渋滞や満員電車のストレスがない。おまけに、空港の駐車場がタダで、料金を気にせず車を置いておける。瀬戸内のキトキトの魚が、信じられないお手頃価格で食べられる。周南市の居酒屋でご一緒した2人の税理士さんは、この居心地のよさを「便利な田舎」と評した。言い得て妙だ。

 もちろん、「二拠点活動」は、すべてがバラ色ではない。家賃は2倍かかるし、交通費はかさむ。ゴミ捨ての日を忘れて移動すると、戻った時にプチ惨状が待ち構えている。それでも、私の転機を知って、多くの人から「実は、自分も考えている」という声をいただいた。その方々に今、4か月の経験を踏まえ、「おすすめします」と自信を持って言いたい。地元コミュニティでは、新たな活躍の機会が得られるだろうし、都会の良さを再発見するきっかけにもなる。何より、人生が豊かになること請け合いである。
 政府も後押しして、このところ話題の「二拠点活動」。思い立ったら、気軽にご相談ください! (ライター 貴志貞広)
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 地方で事業する中で、心にうつりゆくよしなし事を書きつくる随想集「ズレズレ草」を、ペンネームで随時、掲載します。昔から電話などで「サダヒロです」と名乗ると、「下の名前でなく苗字を」とよく言われたし、有名作家を含め貴志という苗字はあることだし、この際、ひっくり返して、ライターとしては別人格になってみました。洞察力にあふれた本家「徒然草」とは、比べるべくもないですが、世間とはちょっとズレてても本音を記す欄にします。ぜひ、ご愛読ください。

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