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ズレズレ草 其の参 「まちごと旅館」体験記~昭和レトロの俵山温泉、名湯復活の挑戦

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2025年11月19日

CATEGORY:随想集「ズレズレ草」
まちおこし舎etwas 貴志 貞広

 銭湯の浴槽ほどの大きさの湯舟に身をひたすと、ぬる湯が肌をやさしく包む。目の前の壁に貼られた「効果的な入浴の仕方」には、「基本的には、十五分~二十分、汗がでるまでお湯につかりましょう」とある。これに従い、時計とにらめっこしながら20分がまんしていたら、頭皮や首回りからジワジワ汗が出た。アルカリ泉で肌がツルツルになり、飲み湯と併用したらお通じも良くなった。
 ここ山口県長門市の俵山温泉は、短期間でも健康効果を実感できる、評判通りの名湯だった。

 かつて全国からの湯治客でにぎわった俵山温泉は今、入湯客減と担い手の高齢化・不足で存亡の危機にある。これを、温泉地全体がひとつの旅館となって再生させようという壮大な実験「まちごと旅館」事業が始まった。
 まずは、「川の湯」という閉鎖した外湯に設けられた受付でチェックインする。ここは、俵山にある「保養旅館 京家」「泉屋旅館」という異なる旅館の客室部分のみを計9室管理しており、「まちごと旅館」のいわば指令室だ。甚平とタオル、入浴手形それに駄菓子を受け取り、旅館に向かう。築百年という旅館は、玄関に花が飾られ、廊下などは磨き上げられている。近代的なホテルと比べれば、エレベーターもなく古さと不便さは否めないが、過去に時間旅行したような不思議な空気感がある。

 俵山温泉の魅力は、すぐれた泉質とレトロな町並みだろう。
 泉質の方は、各種調査で生活習慣病予防や老化抑止、美肌効果が実証されている。一方の町並みは、昭和で時間がとまったようなレトロの風情がある。湯量が豊富でない俵山温泉は、旅館が内湯を持たず、「白猿の湯」「町の湯」という2か所の外湯を訪問客と地元住民が分け合っており、何度でものんびり入りたくなる、気取らずに済む雰囲気を醸し出している。「まちごと旅館」サイトは、「なぜか、すっぴんで歩きたくなる」と評した。筆者はふだん化粧しないが、感じはよくわかる。


 ただ、この枯れた風情は、衰退の現れでもある。
 5分もすれば通り抜けられる温泉街には空き家が目立つ。かつて43軒を数えた旅館は、16軒まで減った。入湯者は1972年の72万人から2022年は11万人となった。地区の人口は、3,663人を数えたピーク時(1945年)から80年たって874人と4分の1に。旅館経営者の子供たちが地元に戻らず、高齢化が進み、温泉街全体として事業継承できるかどうか、開湯1,100年の歴史が途切れかねない瀬戸際にある。
 危機感をつのらせた地元有力者は、長門市に2021年に要望書を提出。市長の決断もあり、市と地元、金融機関、民間企業、外部の専門機関が連携する枠組みができた。2024年には未来のビジョンをまとめた「俵山温泉グランドデザイン」が策定され、これに基づいて始動したのが「まちごと旅館」プロジェクトだ。
 プロジェクトは、株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションが先導する形で25年9月に始動し、2旅館でのトライアルがうまく行けば、従業員不足に悩むほかの旅館にも広げる予定だ。自宅を兼ねる各旅館のオーナーは変えずに、手が回らなくなった客室運営を肩代わりすることで、温泉街全体の旅館機能を維持・拡大しようという取り組みだ。
 温泉としての魅力に関しては、俵山温泉はレトロな風情では山形県の銀山温泉に、外湯のにぎわいでは長野県・野沢温泉に匹敵する潜在力があると感じた。歴史ある湯治文化を、若い世代にもささる「シン・湯治」としてアピールし、収益力を取り戻せるか――。俵山温泉のまちぐるみの挑戦は、同様の課題をかかえる全国の観光地にとっても注目の取り組みとなりそうだ。(ライター 貴志貞広)
           ◆
 「まちごろ旅館」は、公式サイト( https://www.chillnn.com/198a114032dfc/info )から予約できる。



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